日中にまたがって
近松門左衛門作の『国性…』は中国の明王朝を再興せんとする和藤内(わとうない)を中心にした、日本と大陸にまたがる壮大なお話です。
明は中国人の大半をしめる漢民族が支配する王朝でした。これを中国北部の異民族、蒙古族の韃靼(だったん)が侵略。持ちこたえられなくなった明は、韃靼の次に勢いを得た北東部の満州族が清王朝を建てると、1644年、ついに滅亡します。
亡命した明の皇族や遺臣らが王朝再興をめざして中国各地で争ううち、徳川三代将軍、家光の元へも再興に力を貸してほしいと要請がきました。
南シナ海のドン
その依頼主は滅ぶ前の明に仕えていた鄭芝龍(ていしりゅう)です。彼は中国の福建に生まれ、南シナ海を制する密貿易、海運のドンとなり、明国も一目置き、その力を頼もうと「海将」に任じたほど豪胆な人物だったといいます。
芝龍は18歳の時、肥前(ひぜん、長崎県)の平戸にやって来ます。在留中は平戸一官と称し、日本人、田川松との間に男子をもうけました。この子は幼名を日本風に福松といったとか。
幕府の対応
さて芝龍からの要請に、幕府は大老・酒井忠勝、老中・松平信綱、徳川御三家の当主らが秘密裏に協議。紀伊家の徳川頼宣(よりのぶ)は、浪人十万人を集め、自身が総大将になって、と出兵に前向きだったそうです。しかし幕府は、介入は成立後40年を経てようやく完成した幕藩体制や鎖国政策を揺るがしかねない、と要請を断りました。
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