井の中の…
この頃の幕府は役人が陥りがちな前例主義(以前の例にならって問題を解決しようとする)に染まっていたといいますが、降ってわいたこの出来事には対処しようにも前例がありません。なにしろ長らく鎖国していて、外国と付き合ったことがなかったのですから。
外国人を退けようとする攘夷(じょうい)論がいたずらに吹き荒れたのも、相手の力を知らぬ“ 井の中の蛙 ”がいかに多かったか、ということでしょう。
ワンマンの功罪
そんな中、井伊大老は日米修好通商条約を結んで開国を断行。やがて、いわゆる「安政の大獄(たいごく)」で反対派を厳しく弾圧しました。しかし彼は、そうした強硬策が仇になり、「桜田門外の変」で暗殺されてしまいます。
この間の彼の苦難は計り知れませんが、彼は世に出るのがいささか急だったので、有能なブレーンに恵まれず、ひいては情報もうまく得られなかったのでは…、と想像されます。それゆえ“ ワンマン ”にならざるをえなかったのでしょう。
知られざる面を
本作をはじめ数々の名作を産み、劇界の大御所といわれた北條秀司さんは井伊大老の知られざる個人的な側面や人間らしさを想い、また彼に、ご自身と相通ずるところもあると感じて、この作品を創られたのではないでしょうか。
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