明日は放生会
恩人のために人を殺(あや)めた関取の濡髪が、老母にひと目会おうと実家へ立ち寄ったのは、明くれば石清水(いわしみず)八幡宮の放生会(ほうじょうえ)であり、中秋の名月という晩でした。母には義理の息子(亡夫の先妻の子)、十次兵衛もいて、こちらは、その日に代官に任ぜられ、初仕事に濡髪を逮捕するよう命じられたのです。
月の照る夜に
義理と人情のせめぎ合いにさいなまれる母と二人の息子たち。「生けるを放つ放生会」を背景に、屋根の明り取りの引窓を、開ければ差し込む月明かりが劇的にからんで、舞台は詩情豊かに展開します。
生き物に感謝
放生会は、殺生(せっしょう)を戒める仏の教えから生まれた法要で、年に一度、捕まえた鳥や魚を放してやる行事です。人は自身が生きるために、生き物を捕り、生活の糧にしています。放生会では、その罪滅ぼしをし、改めて「生きとし生けるもの」に感謝しようというのです。
元来、仏教の行事だった放生会は、やがて神社である八幡宮でも催され、今も、石清水をはじめ、福岡の筥崎(はこざき)宮などで盛大に行われています。
唐の軍隊から?
八幡宮に祭られる八幡神は大分県の国東(くにさき)半島で信仰されはじめたといわれ、同県の宇佐八幡宮が元締めです。“ 八幡 ”は中国の唐で、軍隊を象徴した「八本の幡(旗)」がその語源だとする説があり、この信仰は大陸から伝わったともいわれます。やがて八幡神は誉田別尊(ほんだわけのみこと、15代応神天皇)であるとされました。 |