「このごろ新之助(しんのすけ)が、十一代目團十郎に似てきてキレイ!」「舞台に華がでてきてステキ!」と祖父のファンであった年配の人たちは、口をそろえて言う。
新しい新之助ファンは、「新ちゃんが、市川團十郎を襲名する姿を見るまでは死ねない」と、やがて團十郎を名乗るであろう未来を夢見て胸をときめかす。
またこの連中が年をとってくると、新之助の子供に父の面影を見出す。
いわばこのくりかえしで、成田屋(なりたや)のごひいきは、代々継承されて行く。
当然俳優本人は、何十年後になるか判らないが最高の名前を目指してがんばる。
ファンはファンで襲名を心待ちにして応援する。
たしかに、人間が変わるわけではないが、新之助、海老蔵、團十郎と名前が変わることによって、舞台が大きく成長するし、観る側の期待もたかまってくる。 観る目も変わってくる。
歌舞伎独特の魅力であり、不思議でもある。
それだけに襲名披露興行は、長年待ちに待たれたイベントである。
場内はお祝いの品等で華やぎ、舞台はその俳優の名前や、家紋を染めぬいた引幕(ひきまく)で飾られる。
舞台では、その家系に代々継承されてきたお家芸(おいえげい)、大切にしている演目、その俳優が志している得意な演目が上演される。
そして必ず幹部総出演(かんぶそうしゅつえん)の「口上(こうじょう)」一幕(ひとまく)が付く。
この「口上」が、意外や人気狂言で、「口上」お目当ての観客が大変に多く、大入りになること間違いない。
本来は、新しい名前を襲名するご挨拶の場であるが、最近は楽屋裏の暴露話なども出てくることが、ままある。
人気があるのはその故かもしれない・・・
昭和五十一年にイヤホンガイドが始まって以来、歌舞伎座で行われた襲名披露興行は、
☆市川 左團次(いちかわ さだんじ)昭和54年
☆坂東 彦三郎(ばんどう ひこさぶろう)昭和55年
☆中村 時蔵(なかむら ときぞう)・中村 歌六(なかむら かろく)・中村 歌昇(なかむら かしょう)昭和56年
☆松本 幸四郎(まつもと こうしろう)・市川 染五郎(いちかわ そめごろう)・松本 白鸚(まつもと はくおう)昭和56年
☆市川 團十郎(いちかわ だんじゅうろう)・市川 新之助(いちかわ しんのすけ)昭和60年
☆市川 團蔵(いちかわ だんぞう)昭和62年
☆中村 梅玉(なかむら ばいぎょく)平成4年
☆中村 鴈治郎(なかむら がんじろう)・中村 翫雀(なかむら かんじゃく)・中村 扇雀(なかむら せんじゃく)平成7年
☆尾上 菊之助(おのえ きくのすけ)平成8年
☆片岡 仁左衛門(かたおか にざえもん)平成10年
☆坂東 三津五郎(ばんどう みつごろう)平成13年
☆中村 魁春(なかむら かいしゅん)平成14年
☆尾上 松緑(おのえ しょうろく)平成14年
平成十六年は、市川海老蔵襲名披露興行
平成十七年は、中村勘三郎襲名披露興行
そして、坂田藤十郎襲名披露
と、襲名披露はつづく。
襲名披露興行は、いやが上にも賑わう。
歌舞伎の最大イベントであり、最高の華である。 |