『三人吉三』
(さんにんきちさ)
くまどりん
『三人吉三巴白浪』(さんにんきちさともえのしらなみ)
『三人吉三廓初買』(さんにんきちさくるわのはつかい)

『三人吉三』は、弁天小僧らの『白浪五人男』とならぶ、白浪物(小悪党の暗躍ぶりをえがいた芝居)の大人気作品。
よく上演されるのは二月、季節もぴったり。
節分の夜、大川端(おおかわばた=隅田川の岸)で夜鷹(よたか=お安く春を売る女性)から、百両もの大金をまきあげてほくそ笑む女装の怪盗・お嬢吉三。
してやったりと思わず口をついて出るのが「月もおぼろに白魚の・・・」の名ぜりふです。
このお嬢と悪のスクラムを組むのは、武家の御曹司が身をもちくずした・お坊吉三と、悪僧・和尚吉三。
お坊とは「お坊ちゃん育ち」のこと。
同じ「吉三」という名前が三人!奇しくもそろったわけです。
劇も後半になると、お嬢とお坊には、どうやらホモセクシュアル的な雰囲気が見えかくれ。
これに「いつかは捕まって処刑されるんだから・・・」という、悪党ならではの捨てばちさがミックスされて、なんともいえぬ頽廃的な空気がただようのも、この芝居の見どころでしょう。
お話の筋は、複雑な因果物語です。
かつて、因果応報(いんがおうほう)の人生観は、日本人の心に深く浸透していたものですが、特に、作者の河竹黙阿弥(かわたけもくあみ)は、それを作劇の基本にした人です。
逃れようのない因果律(いんがりつ)に操られる人間の宿命を描いたのが、この傑作です。
下層世界の闇を描き、おぞましい戦慄の因果話になりますが、陰惨なままでは終わりません。
お嬢吉三が、本郷火見櫓(ひのみやぐら)に登って太鼓を打ち、降りしきる雪が惨劇を浄化して終わります。
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