『累』
(かさね)
くまどりん
本名題:『色彩間苅豆』(いろもようちょっとかりまめ)

怪談趣向の舞踊の中でも最高ランクの名作です。
『かさね』は、本名題が『色彩間苅豆』…これフリガナが付いていないと読めそうもない代物(しろもの)ですが、なかなか味のある題です。
「苅豆」というのは刈り豆を背負った累(かさね)が、夫の与右衛門(よえもん)に殺されるということからで、 「間」を「ちょっと」と読ませたりする作者・鶴屋南北の洒落気(しゃれけ)が楽しめます。
浪人・与右衛門(よえもん)と奥女中・かさね。
降りしきる夏の雨にまぎれて人目を忍び、木下川(きねがわ)の堤にさしかかります。
女は愛する彼の子を身ごもっています。
ひょんな縁(えにし)でこのようについこうなった仲じゃゆえ・・・」
清元(きよもと:歌舞伎音楽を担当する流派のひとつ。高音が魅力的)にのせてクドく(女が自分の思いを男にうったえる)、けなげな女・かさね・・・
ご両人、濃厚な色模様を見せます。
と、そこへ、
「不思議や流れに漂うどくろ・・・」
草刈鎌のささった頭骸骨が川面を流れてきます。
与右衛門が鎌をぬき取ると、突如もだえ苦しむかさね。
見る間にその形相は醜く変化します。
踊りも、ここからガラリと変わり、二人の捕り手(とりて:今でいうお巡りさん)が出て与右衛門にからむ。
「夜や更けて〜」
と清元が美しい節回しを聞かせての立ち回り。
「らちも中洲の白む東雲(しののめ)・・・」
でいい形に決まった瞬間に、ハラリと落ちるうしろの黒幕。
月あかりのうっすらとした照明の中に、与右衛門の悪の本性が不気味に浮き上がります。
与右衛門、実は、かつてかさねの実の母・お菊とも深い仲という悪党!
不倫の現場にふみ込んだ菊の夫の百姓・助(すけ)をメッタ刺しにし、死体を川へ捨てていたのです。
今、流れ着いたどくろは助の変わり果てた姿。
その怨念が娘のかさねにとりつき、かさねの左眼はつぶれ、左足は不自由に。
与右衛門は助の怨念から逃れようとかさねに切りかかり、色模様は終わって、壮絶な殺し場がはじまるのです。
斬りつけられたかさねは、自分の変わり果てた姿に気付きません。
醜い面体と知らぬまま、
「もしやにかかる恋の欲とかく浮世がままにもならば・・・」
切々と思いをかきクドきます。
痛々しくひきずる左足・・・その姿が、不思議な色気を感じさせる・・・
ここの清元も実に美しいフレーズです。
見どころ・聴きどころたっぷりの怪談舞踊!
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