「陰陽師(おんみょうじ)」 歌舞伎座 くまどりん
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陰陽師(おんみょうじ) 安倍晴明(あべのせいめい)は1000年以上前に占いや妖怪退治によって、政権を陰から支えた人物で、夢枕獏作の小説や漫画・映画『陰陽師』でご存知の方も多いことでしょう。その人気作品から「滝夜叉姫」編がこのたび待望の歌舞伎化されます!
陰陽師 安倍保名(あべのやすな)はある時、信太(しのだ)の森(現在の大阪府和泉市)に棲む狐が狩りで追われたのを助け、その恩返しを受けます。晴明は保名を父、その狐を母として生まれたと言われています。このように狐にゆかりのある晴明が、白狐を式神(しきがみ。陰陽師が使う鬼神。物語では、平時には式札(しきふだ)と呼ばれる和紙札の状態にあるものが、陰陽師の術法によって使用されるとき、使役意図に適った能力を具える鳥獣や異形の者へと自在に変身する存在として描かれることが多い。)として使う様子が舞台でも見られます。

そこで、ここでは狐と稲荷信仰について考えてみます。

 
歌舞伎座
信太森葛葉稲荷神社
狐と稲荷信仰
日本では稲荷神社が多くあり、そこにはしばしば狐の像が見られます。これにはどのような由来があるのでしょうか? 稲荷信仰も他の多くのことと同様、古代中国から朝鮮半島を経て、日本に伝わったと考えられます。 古代中国の農村では狐は陰陽五行思想(いんようごぎょうしそう)に基づき、農業神と考えられ、崇(あが)められていました。ここから、稲荷神=農業神≒狐となったと思われます。

狐と陰陽五行思想
陰陽五行思想とは約5千年前に成立した古代中国の思想です。それによると原初唯一絶対の存在は「混沌」で、ここから「陰」と「陽」の二気が生じ、それぞれ「地」と「天」になりました。さらに陰陽二気の交合から木・火・土・金・水の五元素が生じました。
この五元素は相生(そうじょう)と相克(そうこく)の関係で循環しています。相生とは「木生火」「火生土」「土生金」「金生水」「水生木」(木気は火気を生み、…)、相克とは「木克土」「土克水」「水克火」「火克金」「金克木」(木気は土気に克(か)ち、…)ということです。
この五気は宇宙のあらゆることを象徴しています。色彩では黄が土、白が金、黒が水、青が木、赤が火です。五気の中であえて優劣をつけると、大地を象徴する「土」が最も尊ばれていました。
狐は身近にいて、全身が黄色い毛で覆われているために土気の象徴として、豊作祈願の対象として信仰されるようになりました。

白狐信仰

古代中国の記録には黒狐、白狐、九尾の狐を捕らえ、その吉祥として皇帝に献上された例が見られます。日本の稲荷社頭の像になったり、絵馬に描かれたりして信仰対象になっているものは白狐が多いです。上で見たように、白は五気の「金」、狐は「土」を表すので、白狐は「土生金」を表し、ここから白狐は鍛冶・金物商の神、商業(お金の)神としても信仰されるようになります。

伊勢屋、稲荷に犬の糞
東京の街中には現代でも稲荷社が沢山ありますが、江戸の古地図を見るとあちこちに稲荷が見られます。「江戸に多いは伊勢屋、稲荷に犬の糞」と言われたほどです。それは上で見たようにして、稲荷神は農業神、商業神として広く信仰されるようになったからなのです。
 
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