『梶原平三誉石切』
(かじわらへいぞうほまれのいしきり)
くまどりん
通称:『石切梶原』(いしきりかじわら)

梶原平三景時は、源頼朝の、よき参謀役をつとめた人物です。
いくさの前線には、出ることの少なかった頼朝のかわりに、梶原が現地で、いろいろと状況判断し、指令を下したわけです。
ただ、それが、日本史きっての人気者・義経の意見と、しょっちゅうぶつかった。 これが梶原に、憎まれ役のイメージを植えつけてしまいました。
歌舞伎に出てくる梶原も、たいていが、こわもてで頼朝への告げ口をほのめかして、まわりを不安がらせます。 いやな奴、と相場が決まっているのですが、例外もあって、それが『梶原平三誉石切』という一幕。
姿・弁舌・こころ・知恵のどれもいいことずくめの梶原が、刀の目利き者(めききもの:鑑定者)として描かれ、その眼力をフルに用いて、ある父娘の危機を救う物語です。
序盤の大きな見どころは、梶原が名刀の鑑定をするくだりです。 この演目を、日本を代表する刀匠・正宗のご当主といっしょに見る体験をしました。
「梶原の、ひとつひとつのしぐさは、正しい鑑定の作法に、驚くほど忠実ですね」と感心しきりでした。 その証拠にと、みずから刀を持って鑑定の手順を、丁寧に解説して下さいました。 まばゆいばかりに磨きあげられた刃に、その部屋の畳の目が、寸分のゆがみもなく映っていたのを、今でもおぼえています。

【懐紙をくわえる意味】
刃文(はもん)を見るときには、鑑定者は、懐紙を口にくわえます。 お芝居の梶原もそう。
これはふつう、「息がかかると刃が曇って正しく見定めることができないので、それを防ぐため」と説明されています。 そのことを、ご当主に確かめてみると、「それもありますが、むしろ、息やつばがかかっては、刀に対して失礼だ、というのが大きいと思います」。 このような雰囲気をただよわせているのが、本当の「いい」梶原役者なのかなぁ・・・と思える一言でした。
まさに、日本刀は、世界に誇る逸品です。
硬ければ折れやすく、柔らかければ切れにくい・・・
折れにくく、良く切れる日本刀は、日本独特の伝統工芸品です。 そして素晴らしい刀だと見事に見抜く梶原も素晴らしい人!
梶原が刀の切れ味をためす、二つ胴(ふたつどう:人間を二人重ねておいて、真っ二つに切る)という見せ場・・・・
お寺の手水鉢(ちょうずばち:お寺に参詣する人達が手を清めるために水をためた大きな石)を真っ二つに切るという、胸のすくクライマックス・・・・・
心地よいセリフの数々・・・
見どころ聞きどころたっぷりの一幕! 
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